生け花における花留め

2021年11月9日

花をより綺麗に、意図した位置に固定するための強い味方


「花をさすという行動はバケツに花をつけておくということとさほど変わりはない。それとは違い、花をいけることは命を扱うことである」
池坊専永『池のほとり』より


花瓶に花を入れるという単純な行為、行動ではなく、生け花をするということは、数少ない花木を使い、一瓶のなかに作者の思いや花木の命の刹那を表現します。その時に、いけた花の表情を最大限に引き出せるよう意図した位置に固定する道具が求められます。そうした技術や道具のことを「花留め」と呼びます。

花留めとは一体何?


花留めに対して知っておきたい基礎的な情報を以下にまとめました。


・花留めの基礎知識
・花留めの種類
・素材別花留め紹介

花留め基礎知識 (生け花における花留め)


用語として「花留め」は“器に花を固定するための技術と道具。枝で留める方法や剣山で留める方法などがある”と表記があります。

生け花における花留め


草花をそのまま器に入れても、生け花とはいえません。使用する草花の形や表情を生かすには、好みの位置や角度で固定させる必要があります。これを「留(と)める」といいます。花、葉、枝を構成し「形」をつくる生け花では、留める技術がとても大切になってきます。

花留めの種類


剣山、自然素材、吸水性スポンジなど、留めるための道具はたくさんありますが、ここでは基本的な花留めの道具を素材別に紹介します。

金属製


生け花で使用する金属製の花留めとしては、「剣山(けんざん)」が最も一般的です。花や枝の根もとを固定する道具で、金属の台に、太い針を上向きに植え並べたものです。剣山には木物用、草物用があります。金属製剣山が主流ですが、ガラス花器で使用しても目立たないように透明なプラスチック製剣山などもあります。

剣山各種プラスチック剣山  


自然素材


剣山が生け花道具として存在していなかった時代は、どのように花留めをしていたのでしょうか。その一つに、“こみわら”と呼ばれる道具があります。こみわらはしっかりと束ねて留めた藁(わら)を花器口へ入れ、その隙間に草木を挿していく道具です。天然の藁の入手が困難な場合、藁にみたてた素材を使用した商品“理想こみわら”を使用しましょう。その他、Y字状の木を花器口に入れ、草木を留める“又木(またぎ)”もしくは“配(くば)り”があります。ムクゲなどの木が用いられますが、裂けにくい樹木であればどんな樹種でも利用できます。自分で採取したものを使用することが多く、販売品として見かけることは少ないでしょう。この“こみわら”と“又木”については、生け花の中~上級向け道具とも言えるので、生け花教室などで先生に習いながら使用方法を学ぶことをおすすめします。

こみわら木製又木


プラスチック製・ガラス製・樹脂素材


プラスチック製の花留めとしては“フラワーフレンド”、ガラス製の花留めでは“カシテュエ”などがあります。ともに球体の花留めです。さまざまにリングが重なるデザインなので、花を固定しにくい花器などに据えて花が生けられます。食器など身近な器にも使え手軽さが特徴です。使い方はさまざまですが、花留めが転がらない程度の基本的には茎の細い、軽い草花の使用に適しているでしょう。また、オブジェとしても楽しめるアイテムです。樹脂素材の花留めでは“ねっこねっと”があります。毛糸玉のような形状で、ほぐして好きな長さにカットし、花器へ入れ、花留めとして使用します。8色のカラーバリエーションがあり、ガラスの器に入れて色のグラデーションを楽しむなど見せる花留めとしても活躍するでしょう。透明度の高い衝撃に強いポリカーボネート樹脂でできています。ねっこねっとはNHK「おはよう日本 まちかど情報室」でも紹介され、話題になりました。

ねっこねっと


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生花用の花留め“吸水性スポンジ”は、“吸水性スポンジ”や“吸水性フォーム”、“フローラルフォーム”などさまざまに呼び名があります。商品名“オアシス”や“アクアフォーム”などが特に有名です。
どんな角度からも花を挿すことができ、花材を選ばないため、初心者でも使用しやすいのが特徴です。色もさまざまあるので、花の色や花器に合わせて楽しむこともできます。

オアシスオアシス各色

陶器


陶器の花留めについては、穴のあいた陶器で、その穴へ花を挿して使用する花留めです。簡易的で小型のものがほとんどです。また、穴の開いた受け皿が陶器の花器の中に作りつけの状態で販売されている物もあります。お土産品店などで目にする機会が多いでしょう。

もっと知りたいQ&A


最後に、花留めについて、よく聞く質問2つに答えました。


Q.生け花で使用する正月の万年青(オモト)専用の花留めの名前は何というのですか?


A.“石穴(いしあな)”です。万年青等葉物をいける時に使われる伝統的な花留めです。

石穴


Q.生け花で使用される家紋の七宝紋に似た花留めの名前は何というのですか?


A.“七宝(しっぽう)”です。主に嵯峨御流の作品に使用される花留めです。茎の切り口をそれぞれの仕切りの側面を利用し固定します。

七宝